The Bookend

本、時々映画、まれに音楽。沖縄、フェミニズム、アメリカ黒人史などを中心に。

2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧

丸山里美『女性ホームレスとして生きる』書評|決断でも逃走でも抵抗でもなく

書き出しから、著者の悩みは深い。1週間の野宿を含むハードな調査を覚悟する一方で、「研究という目的がある限り、しょせんは彼女たちを自分の調査の道具にしようとしているにすぎない」という思いが、著者を迷わせていた。 その迷いを反映するように、本書…

東浩紀・宮台真司『父として考える』書評|むずむずの先こそが読みたかった

そろそろ卒業かなー、などと思いつつ、『思想地図』の「vol.4」の見納めをしていたら、「父として考える」という対談原稿が目に留まった。語り手は東浩紀と宮台真司。説明無用のビッグネーム二人が、 育児をネタにあれこれ語っている。 好評だったらしく、新…

森崎和江『まっくら』書評|生きてても生きてないのと一緒

焼き尽くされた詩の残骸のような、「はじめに」から圧倒される。「ママ、かえろう」という娘の手を握り、まだ小さい息子をおんぶしながら、女は炭坑の町を見つめている。ニッポンへの、近代への、男への、そして女である自分への憎悪を何とかこらえながら。…

『フォークナー短編集』書評|あたしは黒人にすぎないんだわ。そんなこと、あたしの罪じゃないけど

なすすべもなく、大きな力に押し流されていく南部の人々。もたらされる復讐。あるいは破滅。誰にもそれを止めることはできない。まるで最初からそうなることが決まっていたみたいに。南北の分断により傷んだアメリカ、人種主義、奴隷制、女性嫌悪、愛と憎し…

あるいはジャジーがせいぜいな夜の独り言|『文學界』2020年11月号感想

洋楽ロックやらヒップホップのアルバムなら100枚か200枚は聴いたはずだが、ジャズとなるとそうはいかない。ノラ・ジョーンズまで含めていいならようやく10枚とか20枚とか、せいぜいそんなところだろう。愛聴盤を訊かれれば、無防備なまま『ゲッツ/ジルベルト…