【人種差別】
すごい本だった。ぐっと圧縮された情報量の多い文章であり、予備知識なしの挑戦はやや厳しいかもしれないが、ナチズムを知ろうとするなら、石田勇治著『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)に続けて読むべき必読の一冊である。 まず、前提が違う。著…
ナチス独裁の歴史を描く、その時代の切り取り方がまずは興味深い一冊である。およそ250ページのうち、ナチスによる権力掌握の過程が、わずか77ページ(3割程度)にとどまっているのだ。 『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』の巻末ブックガイドで「最…
文字通り「絶滅」を目指して実行され、ヨーロッパ全体で「少なくとも559万6000人」の犠牲者を出したという、ナチ・ドイツによるユダヤ人の大虐殺(ホロコースト)。いったい、いかなる条件下でそれは可能となったのか。 先に紹介した『検証 ナチスは「良いこ…
(画像は公式Twitterから転用) まっくら。ただただ、まっくらだ。 映画の冒頭、ダーク・アンビエントが不穏に鳴り響くなかで、画面にはただ暗闇が映されている。1分か、2分くらいだろうか、ずいぶんと長く感じる。とにかくしばらくの間、映画からも観客から…
アメリカ系沖縄人を含む、「アメラジアン(AmerAsian)」を象徴的に語らないこと。というかそれ以前に、彼ら・彼女らの存在や、経験を、一緒くたにしないこと。と同時に、「アジア国籍を持つ母親」と「アメリカ国籍を持つ父親(多くの場合、軍関係者)」との…
(画像は公式Twitterから借用) 女が一人、タクシーを止めてコザの街に降り立つ。少し前に、東京からやってきて、広大な米軍基地とオスプレイの轟音に迎えられたばかりだ。 ある目的地に向かって歩き出す彼女を、カメラはまず頭上から視界の端に収め、次のカ…
案外、取り扱いに悩む作品である。 ゲットーの片隅で暴力に怯えながら暮らす少女が、自らの人生を選択し直す過程を描いた『プレシャス』が、徹底的に個人的な(むろん、だからこそ社会的な)映画だったのに対し、本作はまず歴史という大きな枠組みが先にあっ…
まずは書き出しの一文だ。黒人に対する差別意識の表象とも言える、身体性ばかりが強調された動物の比喩や人種的なステレオタイプ*1に満ちた表現――「ココアを混ぜたような肌」「悪魔じみた目」「黒豹みたいな手足」――が著者の側から連打される。 これがパロデ…
時代の後知恵とはいえ、本書に関しては、ジェンダー、もしくはレイシズムの観点からいくら値引きすべきかという問題がまずあるだろう。 例えば、エディ・マーフィの個性を評するのに「白人には見られない底抜けの明るさ」などという表現では個人の資質をあま…
私たちがブラック・ミュージックと呼ぶ音楽の「黒さ」を、音楽家の肌の色以外のものに還元しようとする時、そこには何が残るのだろうか。 本書が見出すのは、アメリカ黒人固有の経験からもたらされる「ブルース」という感覚である。「黒人の魂の深み」という…
元々がヒップホップへの関心からスタートしているこの「ロング・ホット・サマー」特集だが、ようやく音楽がメインの本にたどり着くことができた。 大人が読む入門書としてもおなじみ「岩波ジュニア新書」からの一冊で、ヒップホップが扱われるわけではないも…
この短いタイトルを見て、本書が「アメリカ黒人に関する文芸評論」だと想像できる人がどれだけいるだろう。むしろ表紙の紹介文を読んで、『アメリカ黒人の歴史』のような通史ものを期待する人もいるのではないか。今や重版されていないようだが、タイトルの…
フレデリック・ダグラス。元逃亡奴隷にして、奴隷制廃止主義を貫いた活動家の扱いは、アメリカの黒人解放史を通史的に追うような本の中でも決して大きくはない。 事実、パップ・ンディアイの『創元社本』では、「南部の白人や、無関心を決めこむ北部の白人に…
自由と平和への長い道のり――副題にはそうある。だが、果たして自由や平和が、アメリカ黒人の手に収められたことがあったのだろうか。それが指の隙間からこぼれ落ちることも、どこかへ思わせぶりに飛び立って行ってしまうこともなく? 監修者による序文には、…
その昔、「曲がりなりにもヒップホップを聞こうとしているならこれくらい読んでおいた方がいいよ」と指定されたのが、本田創造『アメリカ黒人の歴史』(以下、『本田本』)だった。 今となればその理由がよく分かる。ヒップホップとは、ニューヨークの荒廃し…
有刺鉄線のフェンス。その向こう側に広がる、沖縄の中のアメリカ。ならば、こちら側はアメリカの辺境としての沖縄だろうか。しばしば両者を媒介する、地元女性と米兵との恋愛――それは、ある種の沖縄現代史が半ば意図的に見落としてきたものかもしれない。フ…
日本で暮らす「移民」について知り、考えようという時に、望月優大著『ふたつの日本』の次に読むといいとどこかで読んだが、まさにそのとおりだ。「今、何が起きているのか」を直視し、建前だらけの受入制度を批判するのが『ふたつの日本』だったとすれば、…
「個」であること。著者が特別な感情を寄せるラッパー、故ECDとの共通点を探すなら、私はこの一言にたどり着く。孤高を貫くとか、そういうことではない。「何かに寄りかからない」ということである。 例えば、自らが「移民」であることを宣言するときも。件…
10年ほど前だろうか、渋谷駅前で初めてヘイトスピーチの現場に出くわした時、こんなことが公共の場で許されるのかと衝撃を受けた。まさに、ラッパー・ECDが「こんな世界があっていいわけがねー」とラップしたとおりだった。 しかし、私はそこで終わってし…
「ハーフの子みたい」と、うちの娘がよく言われる。それも初対面の相手に、おそらくは悪気なく。誰も幸せにならないコメントだと、本書を読んだ今ならば断言することができる。この「悪気はない」というのが厄介だ。こうした日常の一場面こそ、「ハーフ」と…
「お父さん、ブラジルどこ?」――富田克也監督、映画『サウダーヂ』の印象深い一場面だ。あるいは、「日本人は多文化共生に耐えられない」と書いて炎上した上野千鶴子のコメント「平等に貧しくなろう」でもよい。私が見逃してきた「きっかけ」たちである。 気…