1000字書評ブログ “Trash and No Star”

字数制限1000字での書評ブログです。月に2度の更新が目標。好き嫌いにかかわらず、読んだ本はすべて書評します。

岩波ブックレット『沖縄の基地の間違ったうわさ』『辺野古に基地はつくれない』書評|海を受け取ってしまったあとに(5・6)

f:id:dgc1994:20210224235254j:plain

 辺野古埋め立ての賛否を問う県民投票から、2年が経った。私は、『海をあげる』に「優しいひと」として登場する元山仁士郎氏が代表を務めたイベント「2.24音楽祭」を断片的に視聴しながら、当時、ハンスト報道の周辺に吹き上がっていた猛烈な賛否の声を前に、ただ黙っていることしかできなかったことを思い出していた。

 その後、私は少しでも変われただろうか。変われたのかもしれない。しかしその一方で、私がいまだ関心を払うことのできていない、多くの問題、その只中で泣いている人たちのことを思った。沖縄を含むいろいろな社会問題がそれぞれに、「もっと自分ごととして考えて」と痛切に訴えている。当事者ではないすべての人たちに向けて。

 

 でも、すべての人がすべての問題にコミットすることは不可能なんだろう。人の人生には限りがあって、優しさは奪い合いになり、どこかで境界線が引かれてしまう。選ばれる問題は、きっとほんの僅かだ。

 私は、あなたにとってのそれが「沖縄」になればいいのにと思いながら、この記事を書いている。それくらいのことしか、今はできない。

 

 と、いうわけで、「歴史的な文脈を勉強したい気持ちもあるけど、まずは基地問題、特に辺野古の埋め立て問題について手っ取り早く知りたい」というせっかちな人におすすめできるのが、この2冊だ。

 写真左が、「まめ書房」さんが紹介していた1冊。これを手に取るまで、岩波ブックレットなるものが存在していることすら知らなかったのだが、持ってみると軽くて柔らかく、手に馴染む感じが気に入った。

 

 この『間違ったうわさ』は、沖縄基地問題の勘所を抑えた入門書。「沖縄に米軍がいないと中国や北朝鮮が攻めてくるんでしょ?」とか、「基地反対派は本土のプロ市民や日当をもらっている工作員だから、地元住民はむしろ迷惑しているんでしょ?」とか、本土で少なからず信憑性をもって流通してしまっている噂、憶測、デマの類を34個取り上げ、一問一答形式でファクトチェックしていく根気強い内容だ。

 80ページ足らずの小冊子ながら、共著者5名体制。全体的な視点は統一されながらも専門分野の異なる各人のカラーが生きており、振れ幅は意外とダイナミック。特に、海軍と海兵隊の違いも分かっていなかった筆者としては、政府が連呼する「辺野古しかない」という政治的なレトリックを、専門家の発言を引きつつ軍事的妥当性の観点から切り崩す佐藤学氏の手腕にうなった。

  

 そもそも、こういったデマや憶測、誤解はどこからやってくるのだろうか。もちろん、根本にあるのは本土の人たちの無関心だろう。戦後が前提化されすぎていて、おそらく、沖縄問題の存在そのものが認知されていない。辺野古新基地をめぐる政府の巧妙な立ち回りや、尖閣諸島問題に絡めたナショナリズムの高まりが、その隙間に食い込んでいる。用心しなければ。

 

 写真右の『つくれない』も、執念深い1冊だ。ベースとなる前半のファクトチェックを担当しているのは、元土木技術者だという北上田氏。建設工事の図面や工程表、土質調査結果の報告書などを公文書開示請求により入手し、隅から隅まで点検しているから説得力が違う。

 その上で、計画書上の工程と、実際の工程がまったく異なることや、それが正当な手順を踏まずに変更されている手続き的な落ち度を、これでもかというほど指摘してみせる。とても明示的に、具体的に。

 そして、何の因果だろうか、構想全体がひっくり返るような「ボロ」も出始めている。大浦湾海底部の活断層に加えて、ボーリング調査で明らかになった「マヨネーズのような超軟弱地盤」の存在は、調査者側としても「当初想定されていない地形・地質」と認めているという。

 それでも、動きを止めようとしない人たち。透けて見えてくるのは、机を叩き、役人たちをどつき回す東京の「偉い人たち」の姿だ。反対の声を踏み潰し、既成事実を作った上でそれを恒久化させようとする。しかしダメなものはダメだ。

 

 少し引いたことを言うと、この2冊にそれとなく漂う「運動」の空気が、肌に合わない人もいるかもしれない。そういった人を責める権利は、少なくとも私にはない。この境界線は、どのようにしたら薄くできるのだろうか。

 先に紹介した『日本にとって沖縄とは何か』を読んで興味深かったのは、日本もある時まで、米軍基地の問題を本土と沖縄でもっと切実に共有していた、ということである。しかし周知のように、本土から米軍が撤退していくなかで、沖縄だけが取り残されてしまった。

 そんな中、米軍機による超低空飛行が、新宿などの首都圏中心部でも常態化しているとして、毎日新聞が特集を組んでいる。『間違ったうわさ』を読んで知ったのだが、全国の米軍飛行場には、日米地位協定に基づき日本の法律が適用されないのだという。マジか。こうした違和感が、沖縄までつながる道になればいいなと思う。 

 

******

(写真左)
編者:佐藤 学、屋良朝博
執筆者:島袋 純、星野英一、宮城康博
出版社:岩波書店岩波ブックレット
初版刊行日:2017年11月7日

 

(写真右)
著者:山城博治、北上田 毅
出版社:岩波書店岩波ブックレット
初版刊行日:2018年9月26日