1000字書評ブログ “Trash and No Star”

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荒このみ『黒人のアメリカ』書評|特集「ロング・ホット・サマー」5冊目

 この短いタイトルを見て、本書が「アメリカ黒人に関する文芸評論」だと想像できる人がどれだけいるだろう。むしろ表紙の紹介文を読んで、『アメリカ黒人の歴史』のような通史ものを期待する人もいるのではないか。今や重版されていないようだが、タイトルの潔さが一般読者にはマイナスに働いたのかもしれない。

 だが、理知的であり激しくもある著者の文章を最後まで読み終えると、なるほどこれはよく考えられたタイトルだと納得する。「白人の生きるアメリカと黒人の生きるアメリカは別だ」という含意がそこにはある。もちろん、両者は分かち難く関わり合っており、結果的に「白人のアメリカ」を考えることにもなるのだが。

 

 黒人は白人によって、あるいは黒人自身によってどのように語られてきたのか。また、アメリカという国は、黒人たちによってどう描かれてきたのか。それを南北戦争の前後という、もっとも緊張感に満ちた時代の作品を取り上げることで本書は厳しく問うている。

 題材は幅広く、今では入手困難なものも多い。その一つ一つをここで取り上げるだけの余裕はないが、著者が批判的に指摘するのは、当時白人たちに歓迎されたヒット作品が、実は黒人の奴隷的地位の自明化や、キリスト教をはじめとした白人文化への同化を前提にしたものだった、ということである。

 あるいは、かつてフレデリック・ダグラスが自らの所有者を明かした自伝を書くまでは元奴隷だと信じてもらえなかったように、今や大ベストセラーである『ある奴隷少女に起こった出来事』も、当時は白人作家による創作だと信じられていた。どうしてこのようなことが起こるのか。

 著者は、現実に黒人のなした英雄的行為が白人ほどには称えられないことにも照らして、かつては家財同然だった「もと奴隷の黒人が、白人と同等のアメリカ市民になることへの『恐怖』」を反映していると分析している。そのような「白人のアメリカ」において、果たして「共生」は可能なのだろうか。

 

 当時は、解放された黒人のアフリカへの「送還」が論じられていた時代でもあった。白人も、また時には黒人までもが、その「解決策」に現実味を感じていた。しかし、こうした形での「解決」は達成されなかったし、「共生」が実現したわけでもない。

 それでも、アメリカという国に託された理想のようなものとともに、本書は終わる。そうした期待自体、もはや単なるノスタルジーなのかもしれないが。

 

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著者:荒 このみ
出版社:筑摩書房ちくま新書
初版刊行日:1997年12月20日