Trash and No Star

本、時々映画、まれに音楽のレビューブログ。沖縄、フェミニズム、アメリカ黒人史などを中心に。

書評ブログのおすすめ音楽紹介(Best Albums of 2024)

 ゆるっと始めた年末企画、先日アップしたBest Songs of 2024に続く音楽篇として、個人的な年間ベスト・アルバム10作を発表したいと思います。

 

 楽曲篇にも書いたように、今年は音楽を真剣に聴く気持ちが徐々に戻ってきた一年でもありました。もっとも、どうにか動向を追おうとしている沖縄ラップを除けば、時間的な制約もあり、特定のシーンを追ったりだとか、体系的なまとまりで何かを深く聴いたりまではできませんでしたが、昨年よりも一歩前進し、既存のプレイリストを垂れ流す以上の接し方はできたのではないかと思います。

 例によって特にコンセプトも何もないのですが、ここに選んだ10作は、そうした高まりつつあった自分の気持ちに正面から応え、2024年という時代の只中へと誘ってくれた作品、ということになると思います。

 

 しかし不思議なもので。ちょっと前までは、アルバム単位で音楽作品を聴くという行為自体、すっかり過去の遺物になったものとばかり思っていましたが、初めて聴くアーティストなんかの場合、これくらいのボリュームで聴いてみないとどういう人なのか本当のところはわからないし、連続した40分なり50分という時間を現実世界から遮断することの効能というものは、やはり馬鹿にできないなと改めて思いました。

 それを現実逃避と呼ぶのかどうか、私にはわかりませんが、これらの作品が立ち上げる世界には随分と助けられたような気がします。ひょっとすると、このブログの書評記事に一度でも共感してもらえたことがある方にとっては、何か感じるものがあるかもしれません。各種サブスクリプションでも聴けると思うので、冬休みのお供にいかがでしょうか。誰かにとっての予期せぬ出会いが少しでもありますように。

 

******

 

10

Sir Froderick & Georgie Sweet

LOVEMUSCLE

[RAREBREED]

このアルバムよりも高度だったり、新しかったりする音楽は、多分いくらでもあるのだろう。アンダーグラウンド・ヒップホップ界隈のローファイ・ビートテープに、艶やかなR&Bボーカルが乗る。それだけと言えばそれだけだ。ネットを見回してもほとんどレビュー記事が存在しないようだから、このまま存在していないものと同じような扱いで一年が終わるに違いない。こういう音楽をすべてJ Dilla的だとかAaliyah的だとか呼んで重宝する時代でもないだろうし、骨格がビートテープということもあり、すべての曲が2分程度で終わってしまうので、全体の印象は非常に曖昧で、断片的である。しかし、「だからこそ」だ。断片的で、なかなか覚えられない、だから理論的に言って飽きようもない、この存在しないに等しいアルバムを、私はだからこそ繰り返し聴いた。

 

 

9

Jamie xx

In Waves

[Young]

あまりにも多くの時間が流れてしまった。もう時代は2024年なのだ。自分はJamie xxのセカンド・アルバムを本当に待っていたと言えるのだろうか。答えは否だ。そんなことを言ったら世界だってそうかもしれない。いったい誰が、このアルバムを熱望していたと言えるだろう。だがいざリリースされると、自分は意外なほどこのアルバムをよく聴いた。2015年の『In Colour』よりも、アグレッシブで、ハードで、要するにストレートなダンス・ミュージックなのだが、客観的に見ればこれが2024年らしい音楽とは思わない。せめてBeyoncéが『Renaissance』を出した2022年に出ていれば違ったかもしれないが、トレンド感はほぼ皆無と言っていい。ここにあるのは自由というよりも忠誠。ダンスフロアとミラーボールへの果てなき忠誠だ。それは美しい。悲しいくらいに。

 

 

8

Tyla

TYLA

[Fax / Epic]

音楽の国際トレンドとしては、南アフリカ発のAmapianoというハウスのサブ・ジャンルに位置づけられるらしいのだが、専門的なことは何もわからない。確かに、リズムは単純なハウスなようでいてポリリズムの要素も感じるし、全編歌モノである一方、トレンド感のあるネオ・ソウル的なものともそれなりに距離があるように感じる。なるほど、第一印象はどこでにでもありそうなメインストリーム・ポップなのだが、案外奥が深い音楽なのだと思う。自分はただ、R&Bの新星として、例えば"Water"などのヒット・シングルにミーハーな関心を持っただけなのだが。とはいえ改めて聴くと、ほぼ全曲ともシングルで通用しそうな個の強さがすごい。いい曲がたくさん入っているアルバムこそいいアルバムだという、単純な足し算理論で突き抜けたアルバムだ。とにかく規格外。

 

 

7

Cavalier

Different Type Time

[Backwoodz Studioz]

純粋なヒップホップ作品としては、これが2024年でもっともよく聴いたアルバムだ。なんて言うと、何が純粋なヒップホップなのかということを定義しないといけなくなってしまうが、まあ、聴けばわかると思うのでそんな面倒な作業は省略したい。もちろん、ヒップホップを真剣に追求する人たちにとって、ブルックリンのインディペンデント・レーベル、Backwoodz Studiozはもはや(有名すぎて)真剣にフォローするような対象ではないのかもしれないが、少なくともヒップホップ初心者の自分にとっては、一切ハズレがない驚愕のレーベルであった。特に、今年リリースされたカタログの中で言うとこれがすごかった。A Tribe Called Questを思い出す人がいても不思議ではない、ジャジーなミドルスクール。タイトなビートにローキーなラップがよく映える。

 

 

6

Jessica Pratt

Here in the Pitch

[Mexican Summer]

この音楽のすごさをどのように語るべきなのか、年末になってもよくわからない。そもそも、この音楽のジャンルをどのように決定すべきなのかすら、よくわかっていない。普通に考えればフォークなのだろうが、ジャズを感じる曲もあるし、ドリーム・ポップと呼ぶ人がいてもまったく不思議ではない。全体の印象としては、アク抜きされた退屈なラウンジ・ミュージックのようでもあり、1980年代以降のポップ・ミュージックのすべてを無視した反時代的な音楽のようでもある。かと言って、Lana Del Reyのような大掛かりな感じはなく、Cassandra Jenkinsのような妥協も感じない。甘いのに頑固。同じようなテンポ、同じようなアレンジ、どこまでも抑制されたテンション、ほぼ弾き語りで優しいエコーのかかったボーカル、ほとんど催眠的なアルバムだ。

 

 

5

Jonah Yano

Jonah Yano & The Heavy Loop

[Innovative Leisure]

昔の言い方だと、ポスト・ロックとかアート・ロックということになるのだろう。ただ、そういった言い方が想像させる形式的な(時に紋切り型の)芸術性からは距離を置いて、明確にポップを標榜しようとする強い意志を感じる。というか、ポスト・ロックやアート・ロックといった場所から「戻ってきた」という言い方の方がしっくりくるかもしれない。ジャズ、ソウル、(ポスト・)ロック、2000s IndieやJeff Buckleyまでもが混然一体となって、ひとつの大きな音の壁を形成している。デザイン性は高いが、ボーカルや演奏はときに驚くほど情熱的だ。ネットを見る限りではほとんど話題になっていないようだけれども、多くの人のリストで一位に選ばれていてもまったく不思議ではない貴重な作品。狭い意味でのロックでは、これ以上の作品は見つけられなかった。

 

 

4

Yea-Ming and The Rumours

I Can't Have It All

[Dandy Boy]

インディー・ロックのトレンドが今、どういうものなのかが全然わかっていないのだが、実のところ、わかろうとも思っていない。いや、それは嘘だし強がりだ。本当はトレンドに触れつつ、面白いシーンがあるのなら自分なりに深掘りしてみたいと思っていたりもする。BEST NEW MUSICのラインナップだって全部わかっていたい。だがよく考えてみれば、トレンドなんていうものとまったく無縁のものこそが、本来のインディー・ロックではなかったか? その点、この人たちは最高だ。公式のコメントにも書いてあるとおり、多くの人がCamera ObscuraYo La Tengoを連想するだろう音楽を、ただ一心不乱に奏でている。自分はThe Byrdsを思い出したりもした。要するに、参照すべきはトレンドなんぞではなく、常に最良の過去であると。その潔さに惚れた。もちろん、この手の音楽は、今や世界中にありふれているのかもしれない。それでも何かが、この音楽を他とは違う特別なものにしている。それはソング・ライティングであり、引き算の効いたアレンジなのだが、きっとそれ以上に愛なのではないかと思う。

 

 

3

LUCY & SURF GANG

JACK & THE BEANSTALK

[Surf Gang]

2020年代のポップ・ミュージックに関する知識をほとんど持たない自分にとって、ニューヨークのインディペンデント・ヒップホップ集団、SURF GANGとの出会いは2024年の大きな収穫だった。レーベルのバックナンバーもかなり多く、メンバーによって方向性もいろいろなのでまだ全貌がわかっているとは言い難いのだが、時間の許す限り聴いたなかでは、LUCYことCooper B. Handyがリリースしたこのアルバムがエモくて最高だった。音楽ジャンルとしてはラップ/ヒップホップということになるのだろうが、よれよれのボーカルで垂れ流される歌は、Cloud Rap通過後の、あるいは2020s RapバージョンのAnimal Collectiveのようにも聞こえる。何を歌っているかまでは調べていないのでその内容までは保証できないものの、とにかくダラダラと聴いていられる、誰に侵されるでもない新たなスタンダードだ。

 

 

2

Adrianne Lenker

Bright Future

[4AD]

Adrianne Lenkerの最新アルバムが、『Bright Future(明るい未来)』というタイトルなのだと知った時、衝撃のあまりしばし呆然としてしまった。こんなタイトルが今、可能なのかと。だが、言われてみれば確かにそうだ。なぜ、未来が輝かしくあってはいけないのか? それは啓示のようなものだった。そして注文していたレコードが家に届き、1曲目の"Real House"を再生した時、涙が溢れて止まらなかった。頽廃した魂の上で揺れる木漏れ日のようなものが確かに見える、ピアノ・バラード。最小限の音数で、ここまで映像的な演出ができるものなのかと。実際に描かれるのは、星空にたとえた母親の涙だということだが、何かノスタルジックなものが描かれ、その対象がすでに存在しないのだという距離の感覚が、聴く者の心を打つ。それがノスタルジックに響くのだとすれば、過去が消え去ってしまっただけではなく、未来もまた同じように失われてしまったからだ。存在したかもしれない、だが深く失われてしまった未来に対するノスタルジー。それを照らす微かな音楽。

 

 

1

Low End Activist

Municipal Dreams

[Sneaker Social Club]

少なくとも自分にとって、この音楽はいまだ衝撃でしかない。それでもあえて短い言葉でまとめるなら、ブリストルからのダーク・アンビエントということで、漠然とした連想にはなるが、2000年代にBurialと出会った人たちはこういう気持ちだったのかもしれないなと思った。殺伐としていて、どこまでも続く閉塞感がハードに演出されている。もちろん、公式のコメントや専門家のレビューにも書いてあるとおり、これは決して2024年のイギリスを描いた作品ではない(150人の若者が警察署に詰め寄ったという1991年の暴動や、盗難車での疾走が暇つぶしだった当時のBlackbird Leys地区のリアルを描いているという)。それでも、これが2024年の世界に響く意味は決して小さくないと思うし、偶然でもないのではないか。ノイジーで、バイオレンスで、アブストラクト。だがそれ以上に、ここに表現された怒りのようなものに、私は心を動かされる。この町は誰が何と言おうが俺たちのものなんだと言っているようだ。

youtu.be