Trash and No Star

本、時々映画、まれに音楽のレビューブログ。沖縄、フェミニズム、アメリカ黒人史などを中心に。

The Best Songs of 2025(書評ブログのおすすめ音楽紹介)

 性懲りもなく、今年も音楽分野における年間ベストを発表してみようと思います。残念ながら、昨年同様、特定のシーンを執念深く追ったりだとか、体系的なまとまりで何かを深く聴いたりまではなかなかできませんでしたが、音楽を真剣に聴く気持ちがまた一段と戻ってきた一年でもありました。

 特に、ブラック・ミュージックについては古いカタログを方々から引っ張り出して、二ヶ月くらい集中的に聴くことになりました。断片的な知識が改めてつながっていく手応えのようなものが感じられて楽しかったし、聴き飽きたはずの作品の中にも新たな発見があったりして、とてもスリリングでした。この感覚を大事にしていきたいなと。

 だからこそ、このままサブスクでだらだらと聴いている生活でいいのだろうか、という思いが湧き上がってきた一年でもあったので、それはここに正直に書いておこうと思います。この経緯を「サブスクをやめてみた話」みたいなエントリーでネタにしてもいいのだけど、まあ、mp3データの整理など環境が整えば、さっぱりとやめてしまいそうだな、というのが今の感覚。

 これはその直前の、手当たり次第に聴けるものを全部聴いた一年の、自分なりの記録です。

 

 というわけで、2025年に発表されたロック&ポップスの新曲から、選りすぐりの10曲を以下に紹介します。来週くらいの完成を目指してアルバム部門も整理しているので、余力があればそれも近日中に公開したいと思いますが、昨年同様、そちらに入れる予定の作品からは、収録曲を極力入れないようにしました(似たようなリストになってしまうので)。

 特にコンセプトも何もないのですが、あえて言えば、「インスパイアリングでありつつも、いかにポップであるか」を自分なりに考えた結果だと言えるかもしれません。すべて、YouTubeの公式リンクを貼ったので、時間の許す限りご試聴いただければ。誰かにとっての、予期せぬ出会いが少しでもありますように。

 

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10

Lucy Dacus

“Ankles”

[Geffen]

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ここで自分が選ばなければ、多くのリストで無視されてしまうのではないか。これはそんな思いだけで10位に持ってきた。厳格な相対的評価という退屈な観点だけに立てば、この曲よりも優れた楽曲は、それこそインディー・ロックの分野だけでも数多く発表されたのではないかと思う。それでも、私はLucy Dacusを支持し、応援している。今年リリースされた新作アルバム『Forever Is a Feeling』が、あの愛すべき前作『Home Video』や、2020sのインディー・ロックを代表する作品となったBoygeniusの『The Record』には遠く及ばない作品だったのだとしても。

言うまでもなく、彼女が手放してしまったのは、「Bruce Springsteenからの影響」である(父親が愛聴していたという"Dancing In the Dark"は、彼女の十八番としても知られている)。それは、たしかに注目のインディー・ロッカーとして開陳するには恥ずかしいセンスだったかもしれないが、しかしそれゆえに大きな武器となっていたのだ。代わりにここへ注入されたのは、Rufus Wainwrightのようなハリウッド・メロドラマの「繊細なわざとらしさ」であり、それは残念ながら、神聖なまでに美しかった"True Blue"をも忘れさせてしまうほどだった。

そうした失望の中でも何曲かは例外的に素晴らしく、特に、ワンナイトラブ的な題材を歌ったこの"Ankles"は十分に推薦に値する。結ばれてはいけない二人の、その身体的な接点を「足首」に象徴させるあたり、詩情を感じるわけで。イタいことは、きっと美しいのだ。

 

 

9

Doja Cat

“Stranger

[Kemosabe / RCA]

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この曲についても、厳格な相対的評価という観点に立てば、一般的なリストのトップ10にはなかなか入らないのではないかと思う。ならば、自分で選ぶしかない。アルバム一枚くらいの失敗で、Doja Catを無視するわけにはいかないのだ。

言うまでもなく、彼女には二つの顔がある。ラッパーであり、1980s風レトロ・ポップの歌い手であり。もちろん、ヒップホップ以降の時代を生きる多くのR&Bシンガーがそうであったように、これまでその二つの要素は、こうしていちいち言及するまでもないほど自然と同居してきたのだが、2025年の新作アルバム『Vie』は、後者の要素を集中的に打ち出した作品であった。自分はたしかに、そんなDoja Catのアルバムを長らく待っていたのだと思う。実際、Sabrina Carpenterの"Espresso"よりもはるかに素晴らしい"Say So"や、SZAとのスーパー・クラシック"Kiss Me More"に恋をしてきた人間ならば、少なからず誰もが同じ思いを抱いていたのではないか。

だが、実際にそうしたアルバムを現実のものとして聴いてみると、妙なもので、これがいかにも物足りない。ずらりと並んだ楽曲群の中で、相対的にはもっともよくできているはずのこの"Stranger"にしても、SZAとの再演でもある"Take Me Dancing"にしても、メロウなミディアム・ナンバー"Acts of Service"にしても、もちろん標準以上には素晴らしいのだが、「決定的な何か」ではないのだ。それがもどかしい。それでも、この曲を9位に選んでみようと思う。失敗に終わる「逃走(と闘争)」という主題が、映画『キル・ビル』や『フュリオサ』のような致死量の流血を予感させるものだとしても、矢に撃たれるまでは全力で逃げ続けよう。北北西に進路を取れ

 

 

8

Sunwich

“THUNDER!!!!!!!!!

[Sunwich All Star]

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ポップ音楽が、まったくの無根拠であること。というか、音楽にとっては音楽それ自体が根拠なのだ、ということ。つまり音楽が、音楽以外にいっさいの根拠を持たないこと。その圧倒的な頼りなさと素晴らしさを兼ね備えた、一か八かのインディー・ロックが、イギリスでもアメリカでもなく、インドネシアからぶち込まれた。「日曜日に食べるチョコレートのように幸せな音楽」を標榜する5人組、Sunwichである。これはその素晴らしい、2025年の最新シングルだ。

もちろん、客観的に見てこれが、例えばPitchforkの若手批評家が言う「Inspiring music」なのかと言えば、そんなことはないだろう。啓示的な音楽というよりむしろ、これぞお約束どおりの「ギター・ロック」というやつなのであり、"Tears Are Holding Me Tight"などが本当に素晴らしかった2024年のアルバム『Apophenia』のイメージや方法論を無反省に強化することはあっても、そこで築いたイメージを刷新しようなどという気はまったくないのだと思う。それでも、この曲と同じくらい無根拠に、ひょっとしたらここから何かが始まるのではないか、という気持ちを私は抑えきれない。YouTube上の再生回数が3000回に届かないのが信じがたい、知られざる(あるいは無視されし)ビッグ・アンセムだ。

 

 

7

Jim Legxacy

“father

[XL]

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ブラック・ブリティッシュ・ミュージック。Twitterにも書いたとおり、ブラック・ミュージックの入門用に相応しい歴史的名盤を並べた特集記事、"変わりゆく同じもの――『ブラック・カルチャー』を読んだら聴いて欲しいブラック・ミュージックの歴史的名盤 厳選50枚!"が抱える主要な欠陥の一つが、UKのブラック・ミュージックがほとんど反映できていない、というものであった。実を言えば、批評家・Simon Reynoldsの言う「Hardcore Continuum」と、自分が今回のリストで強く意識した「Afrofuturism」の交点からであれば何かを言えそうな気もしたのだが、生半可な手出しはできなかったというのが正直なところである。慌てて購入した平田雅博著『黒いイギリス人の歴史』(講談社選書メチエ)の副題は、「忘れられた2000年」であった。それだけで何かを言い当てられたような気がした。

その忘れられた歳月の果て、ちょうど2000年に生まれたロンドン出身のラッパー/シンガー、Jim Legxacyのデビュー・アルバムは、まさしく『black british music』と題されていた。さらに、2023年のミックステープは『Homeless N**ga Pop Music』というタイトルであったから、彼の主題、問題意識は明確である。音楽的には、USで「sample drill」だとか「sexy drill」などと呼ばれている動きとも連動しつつ、全体とすればエモ・ラップのようにも聴こえる何かだろう。もっとも、後追い世代なので何とも比較のしようもないのだが、2003年、Dizzee Rascalが『Boy in Da Corner』で同じXLからデビューした時のような衝撃は、おそらくまだないのではないかと思うが、それでも特別な言及に値する存在だろうと思う。中でもずば抜けていたのはやはりこのシングルで、聴けばわかるように、父親の不在と、それを共有する僕と君についての何かがエモーショナルに歌われており、トラックはオーセンティックなサンプリングものとして鳴っているのだが、やはりそれだけでは終わらない、新しい懐かしさがあったような気がする。

 

 

6

Julia Michaels & Maren Morris

“Scissors

[GFY]

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恐怖の絶縁&制裁ソング。男から切り出された別れ話を「こちらこそ願い下げ」とばっさり切り返すストーリーなのだが、ミュージック・ビデオを見れば、切ろうと思っているのは関係性だけではない、というのは明白である。もちろん、メロディとアレンジの甘ったるさは余裕っぷりのアピールで、まあ要するに、恋愛の主導権をめぐるバトル・ソングでもあるのだろう。Julia MichaelsMaren MorrisTaylor SwiftLana Del Rey以降のガールズ・ポップ・ロックの担い手としては、やや凡庸なキャリアを歩んできたようにも思える二人だが、このコラボ曲に関しては、Addison Raeのクラシック候補"Headphones On"と同じくらいによく聴いたし、年末にどちらか片方を選ぶとなれば、個人的にはこちらだった。

 

 

5

ILLIT

“빌려온 고양이 (Do the Dance)

[Belift Lab]

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仮に、K-POPの同時代性――そんなものがあったとすればの話だが――が飽和を過ぎて、あるいは契約関係の法廷闘争が泥沼化してしまったNewJeansの記憶と共にどんどん目減りしているのだとしても、来るべき演者にとってそんなものはまったく関係がなく、ただこの瞬間を、ただこの刹那のエモさをそれでも疾走するしかないのだと。そこにあるのが、結局のところ無邪気さを装った矯正と訓練の賜物でしかないのだとしても、彼女たちはただ走るしかないのだと。あるいは"Magnetic"以来のキラーとなったこの曲が、Daft Punkの"One More Time"から四半世紀を経過した時代のダンス・ミュージックとしての進歩をまったく示せていなかったとしても、Perfumeだって普通にこれくらいはやっていたぞという話であっても、あるいは日本のアニメ作品への言及(サンプリング)に深い意味があろうとなかろうとも、原型をとどめないほど擦り切れたストリングスの悲鳴と共に、彼女たちはただ走るのだと。シーンの不可逆な過熱と消失の中で燃え尽きるような美しい一曲。

 

 

4

Sudan Archives

“A BUG'S LIFE

[Stones Throw]

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ブラック・パワー的な自信に溢れたAmaaraeの『Black Star』。アフロフューチャリズム的なアレンジの煌めきとリズムの多彩さが光ったSudan Archivesの『The BPM』。そしてFKA twigsのトリッピーなダブル・アルバム『EUSEXUA』&『Eusexua Afterglow』などなど、2025年はアフロフューチャリズムの流れをくむ現行のブラック・(ディアスポラ・)ミュージックの当たり年でもあった。

それをベスト・アルバム編の中でどれほど表現できるかは自信がないのだが、Sudan Archivesの『The BPM』は、例えばDawn Richardの『Second Line: An Electro Revival』や、Beyoncéの『Renaissance』とも連動する王道のダンス・ミュージックでありながら、同時に、彼方の未来が追いかけてくるような、大胆なパラダイムが提示されているような作品でもあった。その中からあえて一曲をこちらで選ぶのなら、もっともポップに振り切れたこの曲になるだろう。変わりゆく同じもの。そして、同じなのに変わっていくもの。古くて新しい「現在」だ。

 

 

3

HUMAN ERROR CLUB & Kenny Segal

“Night Time feat. E L U C I D

[Backwoodz Studioz]

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できれば主要な作品をできるだけ多くフィジカルで集めたいと思っているアンダーグラウンド・ヒップホップの牙城、Backwoodz Studiozの動向は今年もチェックしていたのだが、アルバムとしては、昨年のCavalierDifferent Type Time』ほど掴まれた作品はなかったのが2025年だった。それでも、楽曲単位ではいくつか刺さったものがあり、特に、『HUMAN ERROR CLUB AT KENNY’S HOUSE』からのこの一曲は極上だった。

核となっているのはLAの三人組バンド、HUMAN ERROR CLUB。元々はベーシストも在籍していたようだが、忙しすぎてバンド活動になかなか参加できなかったようで、じゃあいっそベースは抜きにしようということで、ダブル・キーボード+ドラムスという現在のやや不思議な編成となっているようだ。調べてみると、メンバーそれぞれのバックグラウンドも相当広く、それはデジタル・スピリチュアル・ジャズ・ファンクの向こう側を鳴らすそのサウンドにも十分表れている。そこにKenny Segalや、この曲で言えばE L U C I Dといったベテラン・ラッパーが参加し、カオスなセッションの中にも確かな骨格がずしっと通る仕上がりになっている。最高!

 

 

2

caroline

“Two riders down

[Rough Trade]

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アルバム『caroline 2』に寄せたレビューでも書いたが、対立や分裂といったものが、実は「そのままで美しいのだ」ということを、ここまで実直に、なおかつ大胆に語った音楽作品が今、ほかにどれほどあると言うのだろう。しかも、それは言葉ではなく楽曲の構造それ自体で表現されたものであり、アルバムのコンセプトとしても徹底されていた。そのクライマックスに配置されたのがこの曲で、安易な統合や融和で終わることのない、「そのまま」の洪水と疾走がここでは鳴らされている。

潰れるほどに歪んだストリングス。壊れるくらいに叩かれまくるピアノ、ドラムス。かき鳴らされるギター。Sigur RósArcade Fireの区別もつかなくなるほどの、その恍惚にも似た速度の中で、ロックが死んだとか、死んでないとか、そのような退屈な話題に興じている余裕はまったくない。聞き流されるために作られたようなインディー・ロックは今も昔も掃いて捨てるほどあるが、ここまで切実なインディー・ロックは久しぶりに聴いた。しかもそれは、「あの」ポスト・ロックだったのだ。

 

 

1

Oklou & FKA twigs

“viscus

[True Panther]

Oklouからの熱烈な共演オファーを、クリエイティビティの主導権を完全に明け渡すことを条件にFKA twigsが応じたことで成立したという、2025年ぶっちぎりのトップ・ソング。このパワー・バランスが大正解で、やりたいことはわかるが、頭の中のイメージをまだ完全には音にしきれていないようだったアルバム『hoke enough』の物足りなさを、この曲は見事に突破している。

もちろんそれは、Oklouというフィルターを通じて不思議と今っぽくなるY2Kテイストとしての「新しさ」によるものというより、アルバムにも随所で関わっていたDanny L Harleの手による、2010sの記憶を宿したポスト・ハイパーポップとしての「懐かしさ」によるものなのであり、それはFKA twigsの介入にも同じようなことが言えて、そこは評価が分かれるところだろう。だが、この曲は新しさを競ってはいないのではないか。クリスタライズされたデジタル・サウンド。その圧倒的な空間操作性。吹き込まれる歌、声。ただただ美しい。

 

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