女の子と犬の飄々とした表情がなんとも可愛らしい。驚くときは驚き、ホッとするときはホッとする。表情が素直なのだ。それでいて、オーバーな感じはまったくない。ちょっと悪いことをしている時のソワソワ感や、ちょっと怖いけどやめられないんだという好奇心がポップに描かれている。
物語は、女の子と犬の二人組が、森の中で見つけた不思議な家にこっそり忍び込むところから始まる。実はそれが魔女の家だったためにちょっとしたトラブルに巻き込まれるのだが、魔法にかけられてしまった動物たちを助け出し、自分たちもぎりぎりのところで脱出して魔女を撃退する。
これはやや誤解を招きそうな言い方になるが、別にこれは「いいお話」ではない。大きな括りではむしろナンセンス系の部類に入るだろう。間違っても「感動する絵本」とか、「パパもママも泣ける!大人も感動する絵本」とかのリストには入らないだろうし、むしろそういった価値観から逸脱した一冊である。
それでも、図書館で偶然借りて以来、たまに借り直しては子どもと一緒に読んでいるのだが、親としても構えずに読めて、子どももオチが分かっているのに毎回ドキドキしながら聞いてくれるから嬉しい。なんていうか、差し出された世界を、とりあえずはそのまま楽しむことを教えてくれる本である。絵本ってこれでいいんだろうな、と思う。
また、森のみんなで魔女をやっつける、といっても、別にコテンパンにぶちのめすわけではなく、もう意地悪をしないという約束をした上で、魔法の原動力であるほうき――ひいおばあちゃんの代から伝わる大事なものである――を魔女に返し、見逃してあげるのだ。
これ、普通に読むとスッキリしない。最後のページで魔女は仕返しをたくらんでいるし、またいつ魔法で缶詰にされてしまうか、気が抜けない。でもまあ、別にいいかと。とりあえずみんな解放されたんだし、みたいな。それはナンセンスではなく、もっと楽天的で肯定的な何かだと思うのだが、それを大人が名づけるわけにもいかないか。
とにかく、単純な勧善懲悪ではなく、もっと曖昧な境界線上で物語は終わっている。そこに子どもたちが何を感じているのかは分からないが、親としてはそうやって開かれた物語の存在を黙って肯定しておきたい。
なお、各種の怪しい呪文は、素知らぬ顔でつっかえずに読むこと。また、魔女の登場シーンでは、ページをめくりながら「ひひひ」を先に読み始めるのがポイントだ。小さな冒険、小さな悪いこと。そして小さなしっぺ返し。せいぜい楽しく読んでやろうじゃないか。
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