Trash and No Star

本、時々映画、まれに音楽のレビューブログ。沖縄、フェミニズム、アメリカ黒人史などを中心に。

The Best Albums of 2025(書評ブログのおすすめ音楽紹介)

良くも悪くも、というべきなのか、なんだか恒例となってしまった年末企画、先日アップしたBest Songs of 2025に続く音楽ものとして、個人的な年間ベスト・アルバム10作を一応は発表したいと思います。 ただ、楽曲編でも少し書きましたが、おそらく、話題の新…

The Best Songs of 2025(書評ブログのおすすめ音楽紹介)

性懲りもなく、今年も音楽分野における年間ベストを発表してみようと思います。残念ながら、昨年同様、特定のシーンを執念深く追ったりだとか、体系的なまとまりで何かを深く聴いたりまではなかなかできませんでしたが、音楽を真剣に聴く気持ちがまた一段と…

イターシャ・L・ウォマック『アフロフューチャリズム』書評|ブラック・トゥ・ザ・フューチャー

便宜的に「地球」と名付けられたこの惑星から、まだ見ぬ宇宙の彼方まで。あるいは、遥か古代のエジプト文明から、遥か未来のポスト・ヒューマン時代まで。そうやって時間と空間の限りを自在に、「蛇のように」滑走する想像力に時差と酔いを感じ、思わずよろ…

【ブログ5周年】名刺代わりのおすすめ記事12選!

ブログが開設から5周年になった。今年もバタバタしていたら、いつの間にかなっていた。毎年夏ぐらいになると、「記念企画で"私を構成する9冊"的な記事を書いてみようかな。準備しなきゃな」と思いはするのだが、秋が始まるころには忘れてしまう。今年も、特…

『ある奴隷少女に起こった出来事』書評|祈りとはそれ自体で希望なのかもしれない

黒人奴隷ならびにその子孫は、所有者の財産であって合衆国の市民ではない。 ――1857年の最高裁「ドレッド・スコット判決」より*1 私たちは、奴隷として暮らしたことがない。 光もほとんど入らず、手足を伸ばすだけの広さもない狭苦しい屋根裏で、具体的な逃亡…

変わりゆく同じもの――『ブラック・カルチャー』を読んだら聴いて欲しいブラック・ミュージックの歴史的名盤 厳選50枚!

(画像はDiscogsから引用) 先月公開した『ブラック・カルチャー』の書評を、著者である中村隆之先生がTwitterで取り上げてくださった影響で、たいへん多くの方々に読んでいただいた。皆さまありがとうございました。 同書の感想を簡単に繰り返しておけば、…

中村隆之『ブラック・カルチャー』書評|変わりゆく同じもの

未来は過去から生み出される。 だが、帰るべき故郷は奪われ、過去とのつながりはすでに失われている。 この、断絶。あまりにも深い断絶。 それでもなお、そこで「帰還」が主題化されるとき、彼らはいったいどこへ帰れるというのだろう? あるいはそこは、現…

速水健朗『都市と消費とディズニーの夢』書評|完全な理想都市の残滓として

にわかに再燃した(自分だけかもしれないが)ショッピングモール論争を受けて、真っ先に思い出したうちのもう一冊がこの本だ。 先に紹介した東浩紀と大山顕の対談本『ショッピングモールから考える』と同じく、「思想地図β」文脈による新書で、著者はライタ…

CHICO CARLITO『Sandra's Son』『Grandma's Wish』レビュー|ラッパーと地元(沖縄篇④)

ヒップホップには「母ちゃんラップ」の系譜がある。 もうちょっと格好つけて言うと「Rap Song About Mom」ということになるのだが、言葉のチョイスはサイプレス上野とロベルト吉野の"Dear MaMa"に倣い、いったん「母ちゃんラップ」で進めてみることにするが…

『オキナワミュージックカンブリア ラジオが語る沖縄音楽50年』書評|エフエム沖縄、魂の50年史

ぼんやりと一年も寝かせてしまったことが悔やまれるほど、アツい本だった。 それは本書が、2022年、つまり沖縄の「復帰50年」のタイミングでエフエム沖縄が制作した特別番組を、単に読者向けの語りとして再構成した一冊であるだけではなく、沖縄のポップ・ミ…

東浩紀・大山顕『ショッピングモールから考える』書評|論じるに値しないものこそ

『美術手帖』ウェブ版の編集長、橋爪勇介氏のツイートが炎上した。削除前の投稿も修正後の投稿も読んだが、別にそれ自体はなんてことのない、お盆の帰省にあわせて個人的な感傷を書き留めたものであり、「すっかり東京に染まってしまった自分」に対する「か…

2025年 7月のこと - Monthly Report

アメリカという国が変わっていく。もしくは壊れていく。これはもう、後戻りできない地点を超えてしまっているのかもしれないな、とさえ思う。 かつて9.11後の世界で、「合衆国政府が中東地域で乱暴狼藉のかぎりをつくそうと、その国の映画を擁護する姿勢だけ…

フランツ・カフカ『審判』書評|自分が無罪なのかがわからない

これはめっぽう面白い小説である。いろいろな「深読み」や「拡大解釈」を当然の権利のごとくスタートする前に、まずはこの事実を頑なに確認しておかなければならない。 これは、めっぽう、面白い、小説である。 もちろん、これが「未完の遺稿」を暫定的に並…

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』書評|踊るんだよ。音楽の続く限り。

村上春樹の長編を、これほど短期間でまとめて読むつもりは全くなかった。自分にとって、少なくとも「今の」自分にとって、村上春樹はもうそのような作家ではない、、、はずだった。 だが、何年か前から、佐々木マキ氏によるあのクールな表紙が目に入る度に「…

2025年 5月のこと、6月のこと - Monthly Report

いま、7月23日の22:30くらい。すっかり更新が途絶えてしまった、そしておそらくはもう誰も更新を待っていないマンスリーレポートの5月、6月分の下書きをひとまず立ち上げてみる。特に書きたいことが決まっているわけでもなく、「2ヵ月分ならまだギリギリ間…

村上春樹『羊をめぐる冒険』書評|間違った場所、間違った時間、あるいは引きのばされた袋小路

彼らがたどり着いたのは、結局のところ間違った場所だった。彼らはそこに留まるべきではなかったし、まして引き返すべきではなかったのだ。そこで交わされる言葉も、流れる時間も、何もかもが間違っている。 だが、実際のところ、彼らに選択肢なんてなかった…

佐々木敦『「書くこと」の哲学 ことばの再履修』書評|書くことのゲシュタルト崩壊

日本に生まれ、育ち、母国語としてたまたま習得「してしまった」この日本語というものを、いったんアンストせよと、著者は言う。そんなもの忘れてしまえと。 その上でもう一度、インストールし直すのだと。本書の副題は、だから、本当は「ことばのアンインス…

『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』書評|方法にこそ哲学は宿る

書く以前に書く。 文章を書いているという意識が生まれてしまう前に、ただ書く。 そのような状態に、自分をどう持っていくか。そして、その状態をいかに維持していくか。本書はそのヒントをいくつも共有してくれる。哲学であると同時に、極めて実践的なノウ…

ブラウニング『普通の人びと ホロコーストと第101警察予備大隊』書評|いかにして普通の中年ドイツ人が大量虐殺者になったか

戦争中とはいえ、仕事として一般市民を殺すということ。しかも、一人とか二人とか、そういったレベルではない。何十、下手をすれば何百といった無抵抗の人々を、至近距離で、流れ作業的に射殺するということ。あるいは、生きては帰ってこれない収容所に家畜…

芝健介『ホロコースト』書評|ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌

わずか数行のうちに、数千人が亡くなっていく。それも、次から次へと、だ。 何か悪いことをしたわけではないのに、その殺人は「処刑」と呼ばれた。ただ存在を丸ごと否定され、(こう言ってよければ――)意味もなく殺されたのだ。ページをめくっても、めくって…

caroline『caroline 2』レビュー|これは対立の表現である

騒々しさの中に、静けさがずっと「鳴って」いる。 ロンドンの8人組、キャロライン(caroline)による素っ気ないタイトルのセカンド・アルバム『caroline 2』は、そんな作品である。 もっと一般化して言うなら、相反するはずの要素が、必要以上にせめぎ合う…

是枝裕和監督『ラストシーン』感想|ビフォア・サンセット~恋人までの距離~

(画像は公式動画からクリップした) ピーピーと安っぽい音を鳴らしながら、ロボットとも言えないような機械が配膳を行う夜のファミリー・レストランで、二人の男が何やら話し込んでいる。顔は随分とニヤニヤしているが、もちろん、それほど楽しい内容ではな…

宮﨑駿監督『君たちはどう生きるか』映画評|「血」にも「母親」にも頼らない冒険譚が見たかった

(画像は公式サイトから) 児童文学は「やり直しがきく話」なんだと、岩波少年文庫の創刊60周年に寄せた『本へのとびら』(岩波新書、2011年)で宮﨑駿は語っている。ウォルト・ディズニーと同じく、多くの童話や児童文学を原作にしてきた宮﨑が、どのような…

2025年 3月のこと、4月のこと - Monthly Report

マンスリーレポート、いろいろ忙しくて3月分の更新ができなかったなあと思い、ひとまず2月分の更新を見返すと、「いろいろと忙殺されていて、2月の記憶があんまりない」などと書いてある。デジャブだろうか。しかも、「3月はもうちょっとマシになるかな?」…

リチャード・ベッセル『ナチスの戦争 1918-1949』書評|これは激烈なる批判の書だ

すごい本だった。ぐっと圧縮された情報量の多い文章であり、予備知識なしの挑戦はやや厳しいかもしれないが、ナチズムを知ろうとするなら、石田勇治著『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)に続けて読むべき必読の一冊である。 まず、前提が違う。著…

ウルリヒ・ヘルベルト『第三帝国 ある独裁の歴史』書評|戦争こそナチズムの本質である

ナチス独裁の歴史を描く、その時代の切り取り方がまずは興味深い一冊である。およそ250ページのうち、ナチスによる権力掌握の過程が、わずか77ページ(3割程度)にとどまっているのだ。 『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』の巻末ブックガイドで「最…

中谷剛『ホロコーストを次世代に伝える』書評|二重の意味での部外者として

著者・中谷剛氏は、ホロコーストの歴史にとって二重の意味で部外者である。つまり、「戦後生まれの」、「日本人」だという意味で。 もちろん、そんなことは本人が一番わかっていて、アウシュビッツ=ビルケナウ博物館における日本人初の(そしておそらくは今…

石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』書評|悪夢のような権力掌握過程

文字通り「絶滅」を目指して実行され、ヨーロッパ全体で「少なくとも559万6000人」の犠牲者を出したという、ナチ・ドイツによるユダヤ人の大虐殺(ホロコースト)。いったい、いかなる条件下でそれは可能となったのか。 先に紹介した『検証 ナチスは「良いこ…

田野大輔・小野寺拓也編『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』書評|決して責任を解除することなく

〈悪の凡庸さ〉――。 確かに、魅力的なフレーズだ。短いながらも、その意味するところを考えさせ、何かを喚起する力がある。なんだか「特別な教訓」を受け取れそうな気さえしてくる。 だが、本書のいささか込み入った議論は、良くも悪くも、〈悪の凡庸さ〉と…

2025年2月のこと - Monthly Report

いろいろと忙殺されていて、2月の記憶があんまりない。ブログ本体の記事もほとんど更新できなかったし、まとめ記事なんか書いてる場合じゃないだろと思いつつ、やると言い始めたものを最初の一回で挫けてしまうのもどうかと思い、前回宣言したとおり、「月末…