1000字書評ブログ “Trash and No Star”

字数制限1000字での書評ブログです。月に2度の更新が目標。好き嫌いにかかわらず、読んだ本はすべて書評します。

【生活史/オーラル・ヒストリー】

山里絹子『「米留組」と沖縄 米軍統治下のアメリカ留学』書評|戦後沖縄の複雑さとしたたかさ

これもまた越境者たちの物語だ。戦後の沖縄で、「沖縄」と「アメリカ」を隔てる境界線を跨ぎ、迷いながらも往復した者たちの物語だ。 タイトルの「米留」とは、文字通り米国への留学を指す。この制度が米軍政府によって設立された1949年前後といえば、米軍に…

藤井誠二・ジャン松元『沖縄ひとモノガタリ』書評|何かの象徴でも代表でもなく

「沖縄」という一点のみでつながった、47人分のポートレート。いい意味でラフというか、この47人に何かを代表させたり、沖縄の何かを要約させたり、そういった作為を感じないのがいい。読者はほんの束の間、47人の人生の内側に触れ、また離れていく。その繰…

目取真俊『眼の奥の森』書評|死者は沈黙の彼方に

この救いのない物語をいったいどのように受けとめたらいいのか、見当もつかないまま最後のページをめくり終える。ラース・フォン・トリアーの映画のよう、と言えば、伝わる人には伝わるかもしれない。苛烈で、執拗なまでの暴力描写がもたらす閉塞感と没入感…

阿波根昌鴻『米軍と農民』『命こそ宝』書評|沖縄からは「安保」がよく見える

岩波新書に残されたこの2冊は、ウィキペディアによれば阿波根昌鴻という伊江島の「平和運動家」による闘争記であり、また著者自らの言葉を借りるなら「農民の、小学校しかでていない、明治生まれのものの体験談」である。 基本的には、沖縄の戦後史に関心を…

沖縄タイムス『基地で働く 軍作業員の戦後』書評|戦後の沖縄を生きるということ

沖縄タイムス編。米軍占領下に基地で働いていた人たちの聞き書きを83人分集めている。「はじめに」にあるように、編集意図は明確。「沖縄戦後史の空白を埋めることができるのではないか」という考えのもと、それを基地の内側から見つめ直そうというのである…

新垣譲『インタビュー 東京の沖縄人』書評|寄せては返す、東京の沖縄

シンプルなタイトルだが、読み取れる含意が二つある。一つは、沖縄人(ウチナーンチュ)というアイデンティティがあること。もう一つは、沖縄人は東京で暮らしていても沖縄人だということだ。 雑誌『ワンダー』連載時のタイトルは「聞き書き 東京の沖縄人」…

村上春樹『約束された場所で』書評|なんか体の中に大きな風穴が開いているというか、心がすうすうするんです。

日本の自殺者数は1998年になって急増し、その後15年ほど、年間3万人を超える水準が続いた。この推移について、厚生労働省は『自殺対策白書』で、「バブル崩壊による影響とする説が有力であるが、その後も変わらず高水準で自殺者数が推移してきたことについて…

村上春樹『アンダーグラウンド』書評|でもね親としちゃ触ってみて、冷たくなっていて、それでやっと「駄目だわ」って思えるんです。

存在だけは、もちろん知っていた。村上春樹が手がけた、地下鉄サリン事件関係のノンフィクション。なかなか読む気にならなかったのは、オウム真理教というものが、自分にとって、あえて村上春樹を通じて読んでみたいと思うような題材ではなかったからだ。 い…

大門正克『語る歴史、聞く歴史』書評|誰かの「正史」のための素材ではなく

傾聴、という行為がビジネススキルの一つになるような時代である。著者の言うとおり、今は「聞くことへの関心がひろがっている時代」なのかもしれない。 副題のとおり、オーラル・ヒストリーについて、150年の歴史をたどった一冊だ。もっと早く、「聞き書き…

語りは奪われているのか?|『文藝』2021年冬季号「特集:聞き書き、だからこそ」感想

内容は想像以上に雑多。聞き書きそのものから、対談、エッセイ、論考など、形式もバラバラなら書き手の立場も様々だ。しかし、あくまで特集のタイトルに固執するなら、この問いに真正面から答えているものは案外少ないように感じた。 聞き書き、だからこそ。…

岸政彦『断片的なものの社会学』書評|ただそこにあり、日ざらしになって忘れ去られているもの

掴みどころのない本だ。2015年に買って、以来、断片的に、なんとなく思い立った時に表紙や目次を眺めたり、中身を部分的に読み返したりしているのだが、じゃあ一体どういう本なのかと問われると、うまくハマるような言葉が見つからない。要約されることや、…

黄インイク監督『緑の牢獄』映画評|越境者よ安らかに眠れ

かなり身構えて劇場に向かった。沖縄の離島、台湾からの移民、そして炭坑。こういった題材が交わる場所で撮られた映画が、たとえある時代を生き延びた一人の老女の余生を追ったものであるにせよ、決して穏やかな内容で済むはずがないからだ。 むしろ、沖縄の…

森崎和江『まっくら』書評|生きてても生きてないのと一緒

焼き尽くされた詩の残骸のような、「はじめに」から圧倒される。「ママ、かえろう」という娘の手を握り、まだ小さい息子をおんぶしながら、女は炭坑の町を見つめている。ニッポンへの、近代への、男への、そして女である自分への憎悪を何とかこらえながら。…

宮本常一『忘れられた日本人』書評|忘れられた語りの静かな記録

" data-en-clipboard="true"> 静かに野心的な本だ。雑誌『民話』に連載された当時のタイトルが「年寄たち」であったことが象徴的である。それが「忘れられた日本人」になったのだから、本書が一冊の本として発行された目的は明白だ。その差分、つまり「忘れ…

上野千鶴子『ナショナリズムとジェンダー 新版』書評|あなた方の正史に、わたしは含まれていない

苦闘の書だ。著者、上野千鶴子の1990年代は、いわゆる「慰安婦問題」に捧げられている。本書はその総決算なのだが、達成感らしきものはどこにもない。 本書が戦いを挑んでいるのは、「ただひとつの真実」、「決定版の歴史」を求める人々の欲望である。端的に…

寺尾紗穂『南洋と私』書評|たよりないもののために

シンガー・ソングライター、寺尾紗穂による南洋・サイパンの、日本統治時代の「記憶」をめぐる聞き書き――。本書を最小限の労力で要約するとそうなる。ここにどのような価値や、彼女の音楽活動との整合性を見出せるかは、もっぱら読者の感度にかかっている。 …