Trash and No Star

本、時々映画、まれに音楽。沖縄、フェミニズム、アメリカ黒人史などを中心に。

【エッセイ】

雨宮まみ『女子をこじらせて』書評|人生が底をつくまで

ここまで正直に、自分を開くことができるものなのか。著者は、もしかしたら読者に笑ってもらうつもりで書いたのかもしれないが、全然そうした気持ちにはなれなかった。むしろ、とても悲しい本だと思った。著者がすでに故人だから、というわけではないと思う…

村上春樹『職業としての小説家』書評|「創作」をいったん「作業」にすること

ただ通り過ぎていく時間、取り返しのつかない甘い夏の夢、それをただ眺めていることしかできない無口な少年、ビールと煙草、冷たいワイン、古臭いアメリカン・ポップス、そして微かな予感――。村上春樹のすべてが詰まったデビュー作、『風の歌を聴け』を久し…

岸政彦・齋藤直子『にがにが日記』日記|家族の最期を看取るということ

10月23日(月) 『にがにが日記』の見本が出来上がったらしく、Twitterに写真が出回っている。本としての佇まい、めっちゃいい感じじゃないですか・・・。買うかどうか迷っていたが、それを見て購入を決意。『断片的なものの社会学』に並ぶベスト佇まいかも。 11…

雨宮処凛『「女子」という呪い』書評|うかつに女なんかやってらんない

読みながら、せめて2004年くらいの本であって欲しいと思っていたが、2018年の本だった(元の連載は2012年開始)。回想が多いとは言え、衝撃的である。社会は本当に、少しでもマシになっているのだろうか。まったく自信がなくなるような一冊である。 そう、こ…

小川たまか『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』書評|沈黙は肯定ではない

痴漢、性暴力、女性差別。本書がこれらの題材を扱って明らかにするのは、ジェンダー・ギャップ指数116位(146か国中)のこの痴漢大国で、「ほとんどないこと」にされている女性たちが、ただ普通に生きるだけのことがいかに困難か、である。 そもそも、「ほと…

岸政彦『図書室』書評|「世界の終わり」の終わりについての、小説みたいな映画

誰かが映画化したらいいのに、とまず思った。というか、誰もやらないなら俺がやるで、と慣れない大阪弁で思った。まあ、すでに想像の中ではほぼ撮り終えているのだが。謎のウイルスで人類が滅び、世界が終わったあとの世界を、大量の缶詰を抱えながら歩く少…

アケミ・ジョンソン『アメリカンビレッジの夜―基地の町・沖縄に生きる女たち』書評|どっちつかずの現実から目をそらさないために

有刺鉄線のフェンス。その向こう側に広がる、沖縄の中のアメリカ。ならば、こちら側はアメリカの辺境としての沖縄だろうか。しばしば両者を媒介する、地元女性と米兵との恋愛――それは、ある種の沖縄現代史が半ば意図的に見落としてきたものかもしれない。フ…

大江健三郎『沖縄ノート』書評|この「完全な葛藤」の先には何があるのか

確かにこれは、本土の人間が沖縄の人々に示す態度として、一つの「倫理的正解」ではあるのだろう。沖縄へのコミットメントを深めれば深めるほど、むしろ強烈に感じられるようになっていく沖縄からの「拒絶」の感覚。それを内面化し、絶えず自らを責め、問い…

MOMENT JOON『日本移民日記』書評|In The Place To Be

「個」であること。著者が特別な感情を寄せるラッパー、故ECDとの共通点を探すなら、私はこの一言にたどり着く。孤高を貫くとか、そういうことではない。「何かに寄りかからない」ということである。 例えば、自らが「移民」であることを宣言するときも。件…

岸政彦『断片的なものの社会学』書評|ただそこにあり、日ざらしになって忘れ去られているもの

掴みどころのない本だ。2015年に買って、以来、断片的に、なんとなく思い立った時に表紙や目次を眺めたり、中身を部分的に読み返したりしているのだが、じゃあ一体どういう本なのかと問われると、うまくハマるような言葉が見つからない。要約されることや、…

Cocco『想い事。』書評|夢の終わり、故郷の続き

今年の慰霊の日、【6月23日、黙祷】と題されたCoccoのエッセイをツイッターで読んだ。1995年、バレリーナを夢見て沖縄を飛び出していった少女。文章はその回想から始まる。 地方を捨て、東京を目指すの多くの若者がきっとそうであるように、地元への眼差しは…

東浩紀『ゲンロン戦記』書評|哲学者とエクセル(もしくは、今すぐには変わらない世界のために)

どこで東浩紀とはぐれてしまったのだろう、と思い返しながら読んでいたら、答えが書いてあった。『福島第一原発観光地化計画』だ。 夢から醒めたように、私はその本を買わなかった。表紙の過剰なポップさに馴染めなかったのだ。この10年を振り返った本書の中…

ECD『他人の始まり 因果の終わり』書評|命日に寄せて

人生は一回で、後戻りできない。その残酷さ。そして、その横を淡々と流れていく「時間」のさらなる残酷さ、そのようなものが感じられる。文章そのものが、止まることのない「時間」みたいだ。とにかく寂しい本だった。 ラッパー、ECD。 3年前の今日、亡…