Trash and No Star

本、時々映画、まれに音楽。沖縄、フェミニズム、アメリカ黒人史などを中心に。

【ジェンダー/フェミニズム】

雨宮まみ『女子をこじらせて』書評|人生が底をつくまで

ここまで正直に、自分を開くことができるものなのか。著者は、もしかしたら読者に笑ってもらうつもりで書いたのかもしれないが、全然そうした気持ちにはなれなかった。むしろ、とても悲しい本だと思った。著者がすでに故人だから、というわけではないと思う…

松本佳奈監督・野木亜紀子脚本 連続ドラマW 『フェンス』感想|「女」というスティグマ、「女」という紐帯

(画像は公式Twitterから借用) 女が一人、タクシーを降りてコザの街に降り立つ。少し前に、東京からやってきて、広大な米軍基地とオスプレイの轟音に迎えられたばかりだ。 ある目的地に向かって歩き出す彼女を、カメラはまず頭上から視界の端に収め、次のカ…

廣野由美子『シンデレラはどこへ行ったのか』書評|「一文無しの孤児」が広げたもう一つのストーリー

平置きされていたわけでもないのに、何となくタイトルと目が合った。副題に入っている『ジェイン・エア』はおろか、『赤毛のアン』も、『若草物語』も、『あしながおじさん』さえも読んだことがないのに、先日読んだ『お姫様とジェンダー』の問題意識を継ぐ…

サッサ・ブーレグレーン『北欧に学ぶ小さなフェミニストの本』書評|人間が作ったものならきっと変えられる

原著は2006年。世界経済フォーラムが発表する「ジェンダー・ギャップ指数」で5位となったスウェーデンで発表されている。 こういう児童書が出てくるから5位になれるのか。それとも5位になれるだけの社会環境があるからこういう児童書が出てくるのか。 いずれ…

チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』書評|出口のない迷路に放り込まれ、心を壊していくまで

これはディストピア小説である。が、舞台はどこかのSF的近未来でもなければ、完全監視型の独裁国家が牛耳る暗黒大陸でもなく、現代韓国だ。地獄を描くのに、特殊な寓話的設定などもはや不要ということなのだろう。女性たちが生きる現実そのものが、すでに…

雨宮処凛『「女子」という呪い』書評|うかつに女なんかやってらんない

読みながら、せめて2004年くらいの本であって欲しいと思っていたが、2018年の本だった(元の連載は2012年開始)。回想が多いとは言え、衝撃的である。社会は本当に、少しでもマシになっているのだろうか。まったく自信がなくなるような一冊である。 そう、こ…

小川たまか『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』書評|沈黙は肯定ではない

痴漢、性暴力、女性差別。本書がこれらの題材を扱って明らかにするのは、ジェンダー・ギャップ指数116位(146か国中)のこの痴漢大国で、「ほとんどないこと」にされている女性たちが、ただ普通に生きるだけのことがいかに困難か、である。 そもそも、「ほと…

若桑みどり『お姫様とジェンダー』書評|プリンセスをやっつけろ

娘にどう育って欲しいかなんて別にないし、日々の生活で手一杯だと思う一方、読書の中で「文化資本」などという言葉が目に入ると、やはり環境は大事なのかしらなんていう邪な気持ちが芽生えてくる。 しかし親が子どもの接する文化を検閲するのはむしろ人生を…

筒井淳也『仕事と家族』『結婚と家族のこれから』書評|100分deフェミニズム、(自分にとっての)その後

4人の識者がそれぞれの「フェミニズム本」を持ち寄り、フェミニズムが今日まで何と闘ってきたのかを語り合うNHKの特別番組「100分deフェミニズム」を見て、では自分の持ち場はどこだろうかと考えたところ、ひとまずそれは「家族」だろう、ということになっ…

アケミ・ジョンソン『アメリカンビレッジの夜―基地の町・沖縄に生きる女たち』書評|どっちつかずの現実から目をそらさないために

有刺鉄線のフェンス。その向こう側に広がる、沖縄の中のアメリカ。ならば、こちら側はアメリカの辺境としての沖縄だろうか。しばしば両者を媒介する、地元女性と米兵との恋愛――それは、ある種の沖縄現代史が半ば意図的に見落としてきたものかもしれない。フ…

上野千鶴子『女の子はどう生きるか』書評|せめて女の子の翼を折らないために

この国で、女の子として育ち、生きるということ。そして、この国で、女の子を育てるということ。それがこんなにも、ハードなことだとは思わなかった。ウンザリするようなニュースの山、山、山。その気付きは同時に、自分がこれまで出会ってきた女性たち全員…

丸山里美『女性ホームレスとして生きる』書評|決断でも逃走でも抵抗でもなく

書き出しから、著者の悩みは深い。1週間の野宿を含むハードな調査を覚悟する一方で、「研究という目的がある限り、しょせんは彼女たちを自分の調査の道具にしようとしているにすぎない」という思いが、著者を迷わせていた。 その迷いを反映するように、本書…

上野千鶴子『ナショナリズムとジェンダー 新版』書評|あなた方の正史に、わたしは含まれていない

苦闘の書だ。著者、上野千鶴子の1990年代は、いわゆる「慰安婦問題」に捧げられている。本書はその総決算なのだが、達成感らしきものはどこにもない。 本書が戦いを挑んでいるのは、「ただひとつの真実」、「決定版の歴史」を求める人々の欲望である。端的に…

上野千鶴子『家父長制と資本制』書評|「二人目の母親」として考える

岩波から出ている上野千鶴子の学術本かあ、と怯むことなかれ。特に社会科学の訓練を受けたことのない筆者でも読み通すことができたのだから、さしあたり必要なのは問題意識である、と言っておきたい。 筆者の場合、それは「妻との育児・家事分担」であった。…