Trash and No Star

本、時々映画、まれに音楽。沖縄、フェミニズム、アメリカ黒人史などを中心に。

〔中央公論新社〕

スコット・フィッツジェラルド『グレート・ギャツビー』書評|すべてを昔のままに戻してみせるさ

久しぶりに全体を読み返し、そうだ、『グレート・ギャツビー』は確かにこんな話だったとクリアに思いだした。同時に、いずれまた細かい筋書きはすっかり忘れてしまうだろう、と思わずにはいられなかった。これ自体、ひとつの幻についての回想録であり、ひと…

スコット・フィッツジェラルド『冬の夢』書評|ずっと昔、僕の中には何かがあった。でもそれは消えてしまった

「私を構成する9冊」をやれば確実に入ることになるであろう、1934年の『夜はやさし』も、フィッツジェラルドの絶対的な代表作として確固たる地位を確立している1925年の『グレート・ギャツビー』も、恥ずかしながら話の筋はあんまり覚えていない。最後に読ん…

スコット・フィッツジェラルド『マイ・ロスト・シティー』書評|すべて悲しき若者たち

スコット・フィッツジェラルドは、44年というその短い生涯で、160もの短編を残したと言われている(Wikipediaでそのリストを眺めることができる)。 荒地出版社から1981年に出ている3部作――わが国最初の年代別作品集とう触れ込みである――の第1巻『ジャズ・エ…

筒井淳也『仕事と家族』『結婚と家族のこれから』書評|100分deフェミニズム、(自分にとっての)その後

4人の識者がそれぞれの「フェミニズム本」を持ち寄り、フェミニズムが今日まで何と闘ってきたのかを語り合うNHKの特別番組「100分deフェミニズム」を見て、では自分の持ち場はどこだろうかと考えたところ、ひとまずそれは「家族」だろう、ということになっ…

『アメリカ黒人の歴史(岩波新書、中公新書)』読み比べ|特集「ロング・ホット・サマー」1冊目・2冊目

その昔、「曲がりなりにもヒップホップを聞こうとしているならこれくらい読んでおいた方がいいよ」と指定されたのが、本田創造『アメリカ黒人の歴史』(以下、『本田本』)だった。 今となればその理由がよく分かる。ヒップホップとは、ニューヨークの荒廃し…

永吉希久子『 移民と日本社会』書評|「移民問題」を乗り越えていくために

日本で暮らす「移民」について知り、考えようという時に、望月優大著『ふたつの日本』の次に読むといいとどこかで読んだが、まさにそのとおりだ。「今、何が起きているのか」を直視し、建前だらけの受入制度を批判するのが『ふたつの日本』だったとすれば、…

レイモンド・カーヴァー『ささやかだけれど、役にたつこと』書評|いい事ばかりはありゃしない

最後にいい事があったのは、一体いつだろうか。思い出せない。明日、いい事が起こるなんてことも、別に期待していない。人生の大きな抽選からはすでにあぶれてしまったし、サクセスストーリーの最終電車からもとっくの昔に降りてしまった。この人生がどこに…

『沖縄現代史(岩波新書、中公新書)』読み比べ|海を受け取ってしまったあとに(7・8)

「沖縄現代史」という、教科書のように一般的なタイトルではあるものの、やはり、この2冊の一致には何かしらの意図を見るべきなのだろう。 既に新崎盛暉の岩波新書『沖縄現代史』(以下、『新崎本』)が新版として再発されるほどの古典として認知されている…

東浩紀『ゲンロン戦記』書評|哲学者とエクセル(もしくは、今すぐには変わらない世界のために)

どこで東浩紀とはぐれてしまったのだろう、と思い返しながら読んでいたら、答えが書いてあった。『福島第一原発観光地化計画』だ。 夢から醒めたように、私はその本を買わなかった。表紙の過剰なポップさに馴染めなかったのだ。この10年を振り返った本書の中…

寺尾紗穂『南洋と私』書評|たよりないもののために

シンガー・ソングライター、寺尾紗穂による南洋・サイパンの、日本統治時代の「記憶」をめぐる聞き書き――。本書を最小限の労力で要約するとそうなる。ここにどのような価値や、彼女の音楽活動との整合性を見出せるかは、もっぱら読者の感度にかかっている。 …