村上春樹
ただ通り過ぎていく時間、取り返しのつかない夏の夢、それをただ眺めていることしかできない無口な少年、ビールと煙草、冷たいワイン、古臭いアメリカン・ポップス、そして微かな予感――。 村上春樹のデビュー作、『風の歌を聴け』を一年ぶりに読んだ。前にも…
久しぶりに全体を読み返し、そうだ、『グレート・ギャツビー』は確かにこんな話だったとクリアに思いだした。同時に、いずれまた細かい筋書きはすっかり忘れてしまうだろう、と思わずにはいられなかった。これ自体、ひとつの幻についての回想録であり、ひと…
「私を構成する9冊」をやれば確実に入ることになるであろう、1934年の『夜はやさし』も、フィッツジェラルドの絶対的な代表作として確固たる地位を確立している1925年の『グレート・ギャツビー』も、恥ずかしながら話の筋はあんまり覚えていない。最後に読ん…
スコット・フィッツジェラルドは、44年というその短い生涯で、160もの短編を残したと言われている(Wikipediaでそのリストを眺めることができる)。 荒地出版社から1981年に出ている3部作――わが国最初の年代別作品集とう触れ込みである――の第1巻『ジャズ・エ…
「この程度のもので文学と思ってもらっては困る」。著者のデビュー作『風の歌を聴け』を評して、ある高名な文芸批評家が放った言葉だそうだ。それが誰だったのかはあまり興味もないので調べていないが、ともかく著者は、その酷評にまったく反撥も感じず、腹…
(画像は公式サイトから転載) これは村上春樹作品の「完全な」映画化である。抑揚を欠いたトーンで、書き言葉を話す無表情な人間たち。繰り返される内省と、何度も行き着く袋小路。「僕」と、どこか「霊的な」女。そういった村上春樹的なものをそのまま映画…
ただ通り過ぎていく時間、取り返しのつかない甘い夏の夢、それをただ眺めていることしかできない無口な少年、ビールと煙草、冷たいワイン、古臭いアメリカン・ポップス、そして微かな予感――。村上春樹のすべてが詰まったデビュー作、『風の歌を聴け』を久し…
これは本当にハードボイルド小説なのだろうか。通しで読むのはこれで3度目になるのだが、硬派な汗臭さよりもセンチメンタリズムが勝っていて、すっかり戸惑ってしまった。 もちろん、本作はハードボイルド小説の代表的作品である。私立探偵、フィリップ・マ…
「まえがき」があることにまず驚く。こんなに慎重な作家だったろうかと思うほど親切な自著解題から入る本書は、著者の言葉を額面どおりに受け取れば、「いろんな事情で女性に去られてしまった男たち、あるいは去られようとしている男たち」についての、コン…
音楽を「深く聴く」とは、どんなことだろうか。あるいは、音楽の「意味」とはなんだろうか。そんな大きな問いに真正面から答える代わりに、私はこの本の存在を挙げたい。短編までくまなく読んでいる、というレベルの読者ではないが、それでも言わせてもらう…
日本の自殺者数は1998年になって急増し、その後15年ほど、年間3万人を超える水準が続いた。この推移について、厚生労働省は『自殺対策白書』で、「バブル崩壊による影響とする説が有力であるが、その後も変わらず高水準で自殺者数が推移してきたことについて…
存在だけは、もちろん知っていた。村上春樹が手がけた、地下鉄サリン事件関係のノンフィクション。なかなか読む気にならなかったのは、オウム真理教というものが、自分にとって、あえて村上春樹を通じて読んでみたいと思うような題材ではなかったからだ。 い…
最後にいい事があったのは、一体いつだろうか。思い出せない。明日、いい事が起こるなんてことも、別に期待していない。人生の大きな抽選からはすでにあぶれてしまったし、サクセスストーリーの最終電車からもとっくの昔に降りてしまった。この人生がどこに…
洋楽ロックやらヒップホップのアルバムなら100枚か200枚は聴いたはずだが、ジャズとなるとそうはいかない。ノラ・ジョーンズまで含めていいならようやく10枚とか20枚とか、せいぜいそんなところだろう。愛聴盤を訊かれれば、無防備なまま『ゲッツ/ジルベルト…