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新垣譲『インタビュー 東京の沖縄人』書評|寄せては返す、東京の沖縄

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 シンプルなタイトルだが、読み取れる含意が二つある。一つは、沖縄人(ウチナーンチュ)というアイデンティティがあること。もう一つは、沖縄人は東京で暮らしていても沖縄人だということだ。

 

 雑誌『ワンダー』連載時のタイトルは「聞き書き 東京の沖縄人」。「深い意図があったわけではなく」「ごく普通に」、東京で暮らす若きウチナーンチュたちの声を聞き取っている。聞き手の解釈が前面に出た構成は、語りの物語化が過剰に感じられる瞬間もあるが、まず何よりも、この「普通さ」が良い。

 なぜ沖縄を出たのか。東京はどうか。いま、どう暮らしているのか。この先どうやって生きていくのか。そして、あなたにとって沖縄とは何か。16人の語りが、章を分けて並ぶ。

 第1章では、一応、東京に適応しながら暮らす者たちが。第2章では、クリエイティブな仕事を目指す者たちが。第3章では、東京で結婚を経験した女性たちが。第4章では、「夜の街」を生きる者たちが。そして第5章では、沖縄へと帰ってきた者たちが、語り、語られる。

 

 バラバラな人生の中にも、「共通の語り」がある。沖縄では仕事がなく、賃金が安すぎること。ウチナーグチが恥ずかしく、しばらくは無言で過ごしたこと。東京は人のつながりが希薄で、「張りつめた状態」であること。東京に来てから、沖縄の良さに気づいたこと。結婚は沖縄人同士にして欲しいと、親が言っていること。

 

 語りの中で、「沖縄」は点いたり消えたりする。ある時は、単なる日本のいち地方であり、やがては去るべき故郷である。だがまたある時は、帰りたくても帰れない、失われた故郷でもある。「ここではない、どこか」を求めて飛び出した本土の首都で、若者たちは自分でも意外なほど、沖縄を思う。あるいはだからこそ、努めて忘れようとする。

 本書の特徴として、数年の間隔で2回のインタビューが行われている。夢が叶うには短すぎ、夢が破れるには十分すぎる時間だ。理由は明記されていないが、何人かは2回目のインタビューが収録されていない。第4章に出てくる沙織は、バイトで仲良くなった東京の友人たちと無事、「南の島」を訪れることができたのだろうか。

 

 青春時代の終わりに、日本の首都を放浪するウチナーンチュたちの語りは、東京生まれの「沖縄二世」だという著者の個人史とも共振しながら、微熱を帯び、またバラバラになっていく。いまもどこかで続いているであろう、人生を思う。

 

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著者:新垣譲
出版社:ボーダーインク
初版刊行日:2003年3月10日