Trash and No Star

本、時々映画、まれに音楽のレビューブログ。沖縄、フェミニズム、アメリカ黒人史などを中心に。

【ホロコースト】

ブラウニング『普通の人びと ホロコーストと第101警察予備大隊』書評|いかにして普通の中年ドイツ人が大量虐殺者になったか

戦争中とはいえ、仕事として一般市民を殺すということ。しかも、一人とか二人とか、そういったレベルではない。何十、下手をすれば何百といった無抵抗の人々を、至近距離で、流れ作業的に射殺するということ。あるいは、生きては帰ってこれない収容所に家畜…

芝健介『ホロコースト』書評|ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌

わずか数行のうちに、数千人が亡くなっていく。それも、次から次へと、だ。 何か悪いことをしたわけではないのに、その殺人は「処刑」と呼ばれた。ただ存在を丸ごと否定され、(こう言ってよければ――)意味もなく殺されたのだ。ページをめくっても、めくって…

リチャード・ベッセル『ナチスの戦争 1918-1949』書評|これは激烈なる批判の書だ

すごい本だった。ぐっと圧縮された情報量の多い文章であり、予備知識なしの挑戦はやや厳しいかもしれないが、ナチズムを知ろうとするなら、石田勇治著『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)に続けて読むべき必読の一冊である。 まず、前提が違う。著…

ウルリヒ・ヘルベルト『第三帝国 ある独裁の歴史』書評|戦争こそナチズムの本質である

ナチス独裁の歴史を描く、その時代の切り取り方がまずは興味深い一冊である。およそ250ページのうち、ナチスによる権力掌握の過程が、わずか77ページ(3割程度)にとどまっているのだ。 『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』の巻末ブックガイドで「最…

中谷剛『ホロコーストを次世代に伝える』書評|二重の意味での部外者として

著者・中谷剛氏は、ホロコーストの歴史にとって二重の意味で部外者である。つまり、「戦後生まれの」、「日本人」だという意味で。 もちろん、そんなことは本人が一番わかっていて、アウシュビッツ=ビルケナウ博物館における日本人初の(そしておそらくは今…

石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』書評|悪夢のような権力掌握過程

文字通り「絶滅」を目指して実行され、ヨーロッパ全体で「少なくとも559万6000人」の犠牲者を出したという、ナチ・ドイツによるユダヤ人の大虐殺(ホロコースト)。いったい、いかなる条件下でそれは可能となったのか。 先に紹介した『検証 ナチスは「良いこ…

田野大輔・小野寺拓也編『〈悪の凡庸さ〉を問い直す』書評|決して責任を解除することなく

〈悪の凡庸さ〉――。 確かに、魅力的なフレーズだ。短いながらも、その意味するところを考えさせ、何かを喚起する力がある。なんだか「特別な教訓」を受け取れそうな気さえしてくる。 だが、本書のいささか込み入った議論は、良くも悪くも、〈悪の凡庸さ〉と…

小野寺拓也・田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』書評|包摂と排除の危険なダイナミクス

たった一冊の「ネタ本」を頼りに、Twitterでその道の専門家に「論戦」を挑む。おそらくは「インターネットで真実に目覚める」ことが可能になり、またSNSの登場によって「論戦」を吹っ掛ける環境が整った2000年代後半以降の文化だと思われるが、そうした「歴…

ジョナサン・グレイザー監督『関心領域』映画評|ナチス官僚たちの熾烈な出世レース

(画像は公式Twitterから転用) まっくら。ただただ、まっくらだ。 映画の冒頭、ダーク・アンビエントが不穏に鳴り響くなかで、画面にはただ暗闇が映されている。1分か、2分くらいだろうか、ずいぶんと長く感じる。とにかくしばらくの間、映画からも観客から…