Trash and No Star

本、時々映画、まれに音楽。沖縄、フェミニズム、アメリカ黒人史などを中心に。

書評ブログのおすすめ音楽紹介(Best of 2023:お気に入りの洋楽ポップス10曲)

 このブログも地味ながらなんとか3周年まできたわけで、たまには息抜きというか、年末感のある軽い更新もいいかなと思い、Twitterとかでは定番の、「Best of 2023」的な企画をやってみようかと思います。何をどこまでまとめるかは全然決めてないけど、まずは普段聴いている洋楽ポップスから、選りすぐりの10曲を以下に紹介したいと思います。

 

 とはいえ、既製のプレイリストを垂れ流しにする中でピンときたというだけの話なので、何か特定のシーンや人脈を追っていたりとか、体系的なまとまりとかはまったくありません。順位も、基本は再生頻度に従ってただ機械的に並べただけ。これを発表することになんの意味があるのか、正直ぜんぜん分かりません。

 それでも、やっぱり同じ時代の空気を吸っている人たちの音楽って、いいなあと思えたなと。あくまで自分にとってはそういう一年だったことの記録として、まとめておきたいと思います。もし、このブログの書評記事に一度でも共感してもらえたことがある方にとっては、ここに並んでいる曲の一つくらいには、何か感じるものがあるかもしれません。

 

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10

Black Country, New Road

“Up Song”

[Ninja Tune]

 イギリスのロックがまた元気を取り戻している(らしい)、ということで、いくつかのバンドを試聴してみたのだけど、一番ハマったのはこの人たちだった(雑誌『ポパイ』でも紹介されていたので、かなり売れているのだろう)。うまく言えないけど、この「みんなでやっている感じ」がいいなと思った。特にこの曲は、アッパーなロックにさらに騒がしいピアノと暑苦しいサックスが入る感じが、ちょっとブルース・スプリングスティーンっぽくてたまらなく好きだ。

 

 

9

Tinashe

Gravity

[Nice Life]

 昨年のビヨンセの『Renaissance』に本当に感動したので、プレイリスト垂れ流しとはいえ、クラブ・ミュージックを土台にしたR&Bを意識的に探してみた、というのは隠れテーマとしてあったかもしれない。中でも、この人のクールさには完全にやられた。音楽的な着こなしの問題なのか、とにかく、よく「似合っている」としか言いようがない。R&Bサイドでの引き出しもあるAwichも、バリエーションを増やすためにもこういうクラブっぽい曲をやってもいいのではないかと思っている。

 

 

8

Puma Blue

“Pretty

[Blue Flowers]

 夜、いつものようにキッチンの片付けをしながらチル系のプレイリストを小さめの音で流していたら、この曲がアンテナに引っかかった。ああ、なんだかジェフ・バックリィみたいだなあ、と思ってそのままただぼんやり聴いていた。この暗さは多分、イギリスなんだろう。でも、ぜんぜん嫌な暗さじゃなくて。人を滅入らせるような暗さじゃなくて。甘美、と言えばいいのか、どこか人を誘うような暗さである。「あなたなしでは生きられない」という美しさが真ん中にあるからなのだろう。

 

 

7

Sufjan Stevens

“Will Anybody Ever Love Me?

[Asthmatic Kitty]

 すでに一定の評価が固まっている人ではあるものの、ここしばらくは、ちょっと難解そうな作品や、一見さんにとっては謎の連名・コラボ作品が続いていたような印象があって気持ちが離れていたが、今年出た新しいアルバムはとても自然体で、全体的に体にスッと入ってくる作りなのが嬉しかった。正直、アルバムとしての仕上がりはこの曲が期待を煽ったほどではなかったけれども、いくつかの曲はこの人にしか到達できない圧倒的なパフォーマンスになっていると思う。

 

 

6

Caroline Polachek

“Welcome to My Island

[Perpetual Novice]

 ビジュアル面でのイメージから、音ももっと奇抜な感じかと勝手に思い込んでいたけど、案外ちゃんと歌うんだなと。アルバムとしての出来はともかく、1曲目を飾るこの曲はとにかく完璧だなと思います。とにかくめちゃくちゃ気持ちよさそうに歌っていて、世界を我が物にしたかのような壮大なアレンジの中で「ようこそ、私の島へ」と歌っているわけで、アルバムの1曲目としてあまりに完璧なのでは。サビの「Desire」という言葉も、そこだけ聴いてると分かるようで分からない感じなのが最高。

 

 

5

Janelle Monáe

“Only Have Eyes 42

[Wondaland Arts Society / Atlantic]

 レゲエというのか、ダブというのか、ジャンルのことはよく分からないけれども、背景で踊り続けるピアノ?の裏返ったような音と、ピコピコという電子的な音の組み合わせが面白い。曲の終わりにはストリングスだけが残って、え、ストリングス入ってたんだ、みたいな発見もある。別にこれ、2010年代の頃のビヨンセあたりにやってもらえばいいんでない?みたいな言い方もできる曲かもしれないけど、とにかく芯がしっかりしている名曲です。とにかく歌がいいし、冬に聴いてもやっぱり名曲だ。

 

 

4

Boygenius

“True Blue

[Interscope]

 アメリカの十代の女性向け雑誌「Seventeen」、そのカルチャー欄がこの曲を2023年のベスト16(上半期時点)に選んだ際に、こんなことを書いていた。「boygenius' new single "True Blue" celebrates a pure love when someone (platonic or romantic) knows you better than you know yourself. 」。誰かが、自分のことを自分以上によく知っている、かあ。自分にもそんな日々があっただろうか。それを思い出せない自分はもったいなさ過ぎる名曲だと思いながら、何度も何度も聴いておりました。

 

 

3

Jessie Ware

“Hello Love

[Interscope]

 この、ちょっと大げさな感じがいい。何かいいことあったの?みたいな多幸感。正直、サビの繰り返しなんかが終盤に行くほどちょっとくどいし、日本のポップスに変換するなら完全に歌謡曲の枠だと思うのですが、とにかくいい曲なんだよなあ。さりげなくもガッツリ入っているストリングスや、トランペットや、サックスも全部◎。何かの大団円。何かのクライマックス。ポップスっていいなあと。バックコーラスもとにかく最高なので、まずは普通に聴いて、二回目は後ろのコーラスを追ってみて欲しい。

 

 

2

Jessy Lanza

“Don't Leave Me Now

[Hyperdub]

 この曲は本当によく聴いた。自分は多分、これも昨年のビヨンセのアルバムにあったダンス・ミュージックの享楽的なパワー、みたいな雑な文脈で勝手に聴いていたのだと思う。ハウスなのに3分を切るのは謎だけど、多分、ダラダラ踊るな、この一瞬を生きろ、ということなんだろうなあ、とこれまた勝手に思って聴いておりました。曲の中盤あたり、一度ブレイクっぽくなってから、「1,2,3,4 !」で再び盛り上がっていくところがなんとも気持ちいい。

 

 

1

Boygenius

“Not Strong Enough

[Interscope]

 今年の一曲はとにかくこれ。そういう人多いんじゃないでしょうか。レコードで聴いた人なら分かってくれると思うのですが、あのレコードのあまりにも完璧なA面が、この曲で終わるんですよね。その途中にさっき挙げた“True Blue”もあるわけで、正直もう、そこまでで何度も泣いてしまっているのに、ラストを飾るのがこの絶妙にエモく、絶妙にアッパーな曲なわけで、さらに泣かされます。実は結構、U2っぽい大きめのスケール感なんだけど、それを新進気鋭(でもなくなりつつある)3人衆が見事にものにしていて、ぜんぜん嫌味のない仕上がりに。この3人で活動している間にライブを観ておきたい、というのが当面の夢です。