1000字書評ブログ “Trash and No Star”

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『反逆の神話〔新版〕──「反体制」はカネになる』書評|カウンターカルチャー自省録

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 オルタナティブの追求を諦め、カウンターカルチャー的な思考を卒業し、大衆と和解せよ。そして本当の意味で、社会を変えよ。これが本書に込められたメッセージである。他には何もない。「カウンターカルチャーとは単なる現実逃避である」というのが、本書の結論だ。

 それをカウンターカルチャーの卒業生が書いているという意味ではかなり反動的な本で、だからこそ批判に手加減はなく、大いなる自省録とも言える。カウンターカルチャーの同窓生ならば、著者らの批判の言葉に少なからず「心当たり」があるのではないか。私も途中、何度もヒヤヒヤした。

 

 ただし、「後記」に著者らが自ら記しているように、これは大衆社会批判たるカウンターカルチャーへの「文化的批判」ではなく、「政治的批判」なのである。ここを取り違えると、筋違いの反感を抱いてしまう気がする。つまりこういうことだ。カウンターカルチャーは確かに美しい。でも結局、世の中を変えなかったじゃないかと。

 なぜか。反体制的は身振りは、結局のところ、消費社会の差異化のゲーム内に吸収されてしまうからだ。一つのオルタナティブの勝利は、古い支配層が別の支配層に代わることしか意味しない。オルタナティブという言葉の定義から言っても、それは常に相対的なものに過ぎないからだ。

 新しい王者が決まれば、また別のオルタナティブへの探求が始まる。そこに終わりはない。そしてその終わりなき循環は、消費社会ととても相性が良い。その結果、最後に得をしているのは誰か、という話だ。政府の補助金をもらったロックフェスなんてロックじゃないと批判して満足なら、別にそれでも良いと思うが。

 

 いずれにせよ、カウンターカルチャー的な思考の問題点は、 一発逆転的で、「本当の社会変革」のタイミングがきたら本気出す、みたいな発想に流れがちなことだという。浅田彰の言った「ゴドー待ち」と同じだ。それを諦めさせ、「地道にやっていこうぜ」と本書は言っている。社会の仕組みをちゃんと勉強して、「文化的な抵抗」や「ラディカルな批判」だけではなく、現実的な対案を出せと。

 こういう地味でまともな結論に、どれほどの反逆者たちが素直に啓蒙されるかは疑問。とは言え、外堀は完全に埋められてしまった感がある。原著の旧版は2004年。オルタナ右翼の台頭や、潔癖的な左派によるキャンセル・カルチャーにも触れた「序文」がなくとも、十分に同時代的な内容だ。

 

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著者:ジョセフ・ヒース、アンドルー・ポター
訳者:栗原百代
出版社:早川書房〔ハヤカワ・ノンフィクション文庫〕
初版刊行日:2021年10月15日