1000字書評ブログ “Trash and No Star”

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望月優大『ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実』書評|移民大国の古くて新しい不都合

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 「お父さん、ブラジルどこ?」――富田克也監督、映画『サウダーヂの印象深い一場面だ。あるいは、「日本人は多文化共生に耐えられない」と書いて炎上した上野千鶴子のコメント「平等に貧しくなろう」でもよい。私が見逃してきた「きっかけ」たちである。

 気がつけば、「移民大国」。ある朝開いた新聞にはそんな言葉が書いてあった。今やコンビニのレジ打ちは外国人ばかり。いったい何が起きているのか。

 

 すがる思いで手に取ったのが、本書である。すでに2年も前の話題作だが、疑問を疑問のまま放置してきた私のような人間でも、在留資格の種類や制度面の流れ、ブローカー絡みの裏事情まで一気に学べる構成で、今も入門書に相応しい立場にあるのではないか。

 日本で暮らす外国人が「オーバーステイまで含めて少なくとも400万人」という量的な衝撃に加えて、「日本で何十年も暮らしているのに日本語がおぼつかず、日本で生まれ育った自分の子どもとすら十分に会話ができない外国人」という質的な衝撃。本書のタイトルが示す「断絶」の深さを思い知る。

 

 何が起きているのか。

 1990年前後に来日したブラジル人やフィリピン人、ペルー人などにはすでに相当の滞在期間があり、「永住者」に移行しているのだという。しかし重要なのは、例えば結婚したり、子どもができたりといった、人生のちょっとした匙加減のようなもので、気がつけば永住者になってしまった。そのような人も少なくないことである。

 日本の資本制は、おそらくここに反省点を見い出している。彼らが求めているのは不都合な移民ではなく、あくまで「単身で、健康で、いつか帰る外国人労働者」なのだ。2009年に正式に制度化された「技能実習制度」には、その欲望がありありと刻まれている。技能実習生の上がりポストのような見かけをした「特定技能」はどうなるのだろうか。

 

 労働者としても住民としても周辺化された人々が生きる「もうひとつの日本」。それが3年であれ、5年であれ、人間が労働するのであればそこには暮らしがある。政治家の明細書のように「なかったこと」にはできないのだ。

 一冊の本としては、「当事者たちの声」がもっと聞ければとも思ったが、それは著者が編集長を務めるウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』の役割のようである。古くて新しい、移民問題。幸いにも案内人には恵まれているようだ。入り口に立たせてくれた本書に感謝したい。  

 

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著者:望月優大
出版社:講談社講談社現代新書
初版刊行日:2019年3月20日